【連載】米国住宅市場動向≪2022年12月号≫

≪住宅市場動向≫:住宅ローン金利が歴史的高値につき、住宅を売りに出す人が少ないため住宅供給が増えない

2022年11月に開催されたFOMCでは4会合連続で75bpsの利上げが行われましたが、後日の10月米消費者物価指数(CPI)では総合+0.4%(予想+0.6%)、コア+7.7%(予想7.9%)と市場予想を大幅に下回る結果となり、インフレは夏場にピークアウトしたとの見方も出て一気に金利低下、株高、ドル安の展開となりました。
これを受けて次回12月のFOMCでの利上げ予想は50bpsとなる公算が高まり、利上げペースの減速が圧倒的なコンセンサスへと変わっています。インフレ動向を項目別に前年同月比で見ると、エネルギー、食品、財の3部門は9月よりも伸びが縮小、ガスや中古車価格が減少したことがインフレ率上昇の抑制に繋がりました。
一方、サービスは9月から横ばいであるものの、構成比が大きい家賃を中心とする住居費が高い伸びを続けていることが、伸びの鈍化を抑制した結果となりました。住宅ローン金利はFOMC後の7%台をピークに12月は今のところ6%台半ばで推移しています。
9月のケース・シラー住宅価格指数(季節調整済み)は対前月比-0.76%(グラフ上)と3ヵ月連続の下落でした。価格が上昇した地域はマイアミ(24.6%)、タンパ(23.8%)、シャーロット(17.8%)。一方、価格の下落率が最も高い地域はサンフランシスコ(-2.2%)、フェニックス(-2.1%)、ラスベガス(-2.1%)。サンフランシスコについては2022年5月のピーク時より10.3%も下落したことになります。
下のグラフはケースシラー住宅価格指数(季節調整済)および住宅在庫の相関図です。過去5か月(5月~9月)の推移が表示されています。9月の住宅価格-0.76%に対して住宅在庫は3.2ヵ月と、過去3ヵ月は価格が下落しつつも在庫は低い水準で横ばい推移しています(5月2.6ヵ月、6月2.9ヵ月、7月3.2ヵ月、8月3.2ヵ月)。歴史的には住宅在庫が6ヵ月に到達するまでは住宅価格が下落することはありませんでした。住宅在庫が増えない要因は以下3点にあり、これらが解消されることが住宅供給回復の糸口となると考えられます。

1)5%台未満で住宅ローンを借りている人が約80%おり、保有する住宅を売る人が少ない(わざわざ売る必要がない)
2)住宅資材のサプライチェーン問題による建築の遅延
3)住宅ローン金利、住宅価格が歴史的高値にあり、新たな買い手がそもそも少ない

 

≪住宅市場のトレンド≫:戸建住宅は相対的に集合住宅よりも利回りが高いがリスクがある

2022年11月18日、住宅ローン金利は1週間で7.08%から6.16%へと1981年以来の急下落を見せました。それまでの金利上昇局面において住宅ローンを借りる人が激減して戸建住宅需要が大幅に鈍化した一方、賃貸需要が一気に伸びたため集合住宅へのシフトが暫く続いておりました。
一般的に集合住宅はアパート・タウンハウス・コンドミニアムなどのことを指しますが、そのリノベーションは戸建住宅と比べて大規模な工事となります。そのためリノベーションにかかる費用も集合住宅の方が高く、結果的に戸建住宅の利回りが高い傾向にあります。
しかし、昨今の住宅ローン金利の高騰により、住宅取得コストが高くなったことが中古住宅販売の鈍化の主な要因となっていることから、戸建住宅へのリノベーションにはリターンを上回るリスクが顕在しています。そのため、リノベーションが完工してから販売までに時間を要してしまう戸建住宅よりも、明確な需要がある集合住宅(賃貸住宅)への投資が増えているのです。
今後、住宅ローン金利が落ち着き、中古住宅需要が回復すれば再び戸建住宅への投資も増加するものと考えられますが、今は業界的にもリスクを負った上でリターンを狙いに行くよりも保守的な運用戦略が求められています。
以上