米国金融政策が住宅市場へ与える影響は限定的:健全な家計が住宅市場を下支え

(1)  住宅需要への影響
・ 住宅購入者層は史上最も潤沢な純資産を保有している
・ 住宅ローンの延滞率は過去最低水準であり、借り手の返済能力に問題なし
・ 戸建て住宅の需要減少は集合住宅の需要増加に転向

(2)  住宅価格への影響
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金利上昇による需要が鈍化する一方、深刻な住宅在庫不足により住宅価格は高止まり
・ 住宅在庫不足が解消するには少なくとも2-3年はかかると言われており、住宅価格の大暴落は考えにくい
・ 未だに全米主要都市における住宅価格は高騰しており、価格の減少が観察される地域は限定的

(3)  リノベーション・ローンへの影響
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住宅改装改築プロジェクトのIRRは高く、高金利下でも住宅開発業者は十分な利益を確保することが可能
・ リノベーション・ローンの大半は変動金利であり、貸し手目線では金利上昇の影響はない
・ よりリスクを抑えたクオリティの高いプロジェクトに注力することでリスクを低減

  • 住宅需要への影響
    FRBによるインフレ抑制のための政策金利引き上げは米国住宅需要の鈍化をもたらしていますが、実際に住宅を購入する層の雇用は非常に強く、この20年で資産が2倍、負債は横ばい、純資産は4倍にまで成長しました。そのため、人口流入などの実需のある地域では引き続き住宅需要が強い傾向にあります。さらに、住宅ローンの延滞率は現在は過去最低水準の1.96%と借り手の返済能力が高く、現在の住宅市場は非常に健全な状態となっています。
    *信用スコア:FICO値のこと。300~850点の範囲で700点以上であれば優良とされている。また、住宅ローン金利の上昇は住宅需要のシフトをもたらし、戸建て住宅から賃貸住宅への流れが強くなっています。そのため、集合住宅の空室率(2022年Q2)は5.6%と過去最低水準となっており、主要都市を中心に家賃の上昇率は例年+3~4%(前年比)でしたが直近は+17%と家賃が高騰しております。このように金利上昇局面でも引き続き住宅需要は強く、背景には増大する世帯形成などの構造的な要因が働いております。
  • 住宅価格への影響
    通常、金利が上昇すれば需要が鈍化し、住宅価格は下がる傾向にあります。しかしながら、現在の状況は住宅供給が歴史的低水準となっており、需要と供給のアンバランスによって住宅価格が上昇しています。2008年頃をピークに中古住宅在庫は減少し、2019年コロナによる超低金利下での住宅ブームによって住宅在庫は過去最低水準となりました。2022年4月以降、徐々に在庫数は回復しつつありますが、それでも9月現在は2019年頃の適正在庫水準とされ る4~6ヶ月の半分程度の3ヶ月しかなく、供給不足はしばらく続く見込みです。サプライチェーン問題等も考慮すると、適正水準に戻るまで2-3年かかると言われております。現在、全米の主要都市における住宅価格は全て高騰しており、年間ベースで住宅価格の下落が観測されている地域はありません。但し、アイダホ州ボイシやテキサス州オースティン等は投資目的の物件が多く、価格下落の懸念があります。しかしながら、雇用の急激な悪化に伴い現在保有している大量の住宅が競売にかけられたり、どうしても安い価格で住宅を手放さざるを得ないような深刻な状況にならない限 り、住宅価格の大幅な下落が起きることはなく、現在の底堅い米国経済を勘案するとその可能性は低いと言われております。 出所:REDFIN
  • リノベーション・ローンへの影響
    住宅開発業者向けのリノベーション・ローン(RTL)は内部収益率(IRR)が30%~40%と非常にパフォーマンスが良いプロジェクトが多く、借入金利が高くても十分に採算が取れる状況にあります。また、住宅供給の改善は金融政策の目的の一つであることから、リノベーション・ローンにとってはむしろポジティブ材料と考えております。一方、ローンオリジネーター(貸し手)からしても、貸出金利の大半が変動金利建て(Libor+α)であるため、金利上昇の影響を全く受けることなく安定した金利収入を得ることができます。また、LTV(Loan to Value)を通常の80%から70%に低く抑え、期間が短くて高収益なプロジェクトに注力したり、また、前述の通り、価格が下落する懸念のある地域などを予め除外したり、引き続き強い需要がある地域に注力することで、プロジェクト毎にリスク管理を徹底しております。

 

以上のように、今現在の住宅市場は非常に健全な状態です。住宅在庫が大きく改善しない限り、当面は今の状況が継続する見込みです。